連作短編集。
三人の男が現実とも非現実ともつかない静かで暗い世界に生きている。
それぞれ、何人かの他人と接点がありつつも情景がきれぎれに交錯しており、最終的に孤独感が漂うもののそのなかで見つかったような気がする幸福感。
主人公が死んだところから始まり、可哀相という言葉から次第に悟りの境地に達する「あやめ」が好きだなぁ。
「化け物に取り憑かれ、自分は生きているとか、まだ辛うじて生きているとか、どうやらもう生きてはいないようだとか、しょうもないことの数々を言葉にならない言葉で自分に言い聞かせはじめたときから逃れがたく抱えこんでしまった、人類という種に固有のこの妙ちきりんで滑稽な悲傷。」
「どれだろうとそれがそうだと思ったときそれは木原にとって紛れもない現実となるのであり、もし複数の様々なことをそれらはみなそうだと同時に思うのならその思った数だけの紛れもない複数の現実があるわけだった。」